ダウンロード 外傷麻酔エッセンシャル 重症外傷の蘇生と周術期戦略 無料 PDF ブック。

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外傷麻酔エッセンシャル 重症外傷の蘇生と周術期戦略

書籍の説明

  • ファイル名: ダウンロード 外傷麻酔エッセンシャル 重症外傷の蘇生と周術期戦略 無料 PDF ブック。.pdf
  • ISBN : 63068810
  • リリース日 : 18 3月 2021
  • ページ数 : 139 ページ
  • 著者 : 今 明秀 (翻訳)
  • 作成者情報 : 今 明秀 (翻訳)
  • エディター : 独立した出版社

 

書籍の説明

外傷麻酔は手術室麻酔ではなく手術室蘇生だ
それは,腹部と頸部を刺され,階段から転落した患者だった。初療の乳酸値が4mmol/L を超える出血性ショックで,死亡率が高いことは麻酔科医も外科医も予想していた。
手術室の室温を上げておく。加温パッドとブランケットを用意した。加温急速輸血装置のスイッチを入れておき,血液保管庫にはO型血があることを確認しておく。
患者が入室。急速輸液に備えて静脈ラインから空気を抜いておく。麻酔導入は,血圧低下が少ないケタミンを使う。頸部切創のため頸部が腫れている。声門を通して気管損傷の有無をみるために,ビデオ喉頭鏡で挿管する。挿管に失敗した場合は通常,輪状甲状靱帯切開となるが,頸部腫脹のときは気管切開のほうが早い。輪状軟骨を触れることができないからだ。
患者は暴力団風の体裁で暴れている。通常の迅速導入rapid sequence induction (RSI)では,気管チューブが固定されるまでは換気を試みないとされている。しかし,非協力的な患者で満足な前酸素化ができないときはマスク換気を行うべきだ。
麻酔導入はうまくいった。酸素と空気で麻酔を維持する。外傷患者には亜酸化窒素(N2O)は使わない。理由は,脳血管拡張による頭蓋内圧(ICP)の上昇と,麻酔中に空気を含有する腔が膨隆し気胸が悪化するから。
「頭部外傷を合併しているので,ICPをあげないようにしてください。そのためにはPaCO2 (動脈血二酸化炭素分圧)の上昇に気をつけてね」「はい,EtCO2(呼気終末二酸化炭素)は40 mmHg ですよ」「出血性ショックのときは,PaCO2>EtCO2の差が開くんだ。EtCO2 を盲信すると8割で低換気になるから定時でガス分析してね」 開腹止血術が進む。耳で聞いていた末梢動脈血酸素飽和度(SpO2)の電子音が低くなった。気胸が気になるが,気道内圧は大丈夫だ。「気胸の所見がないか横隔膜をみてください」と外科医に頼んだ。「術野では左横隔膜に奇異運動があるよ。血胸か気胸がきっとあるね」「頭側から肺エコーやってみます」「腹部の止血が終わってから胸腔ドレーンを入れるよ」 モニターディスプレイに表示される動脈圧波形をeyeballing(凝視)する。波形が変動し,形に変化がみえた。これは,収縮期血圧変動systolic pressure variation(SPV),脈圧変動pulse pressure variation(PPV)の悪化で蘇生不良を意味する。
まだ止血操作は完了していない。pH をチェックすると7.20を下回っている。それまで行っていた輸液制限で収縮期血圧(SBP)80~ 90mmHg の軽度低血圧蘇生は危険と判断した。輸血スピードをあげる。術野では懸命の止血操作が続く。
その後,事態は悪化する。「出血が40%を超えています。base excessが-15を超えました。危険です。輸血が追いつきません」「わかった,手術手技を止める。パッキングで肝臓を圧迫止血するから,何とかcatch-upして」「5 分ください」
麻酔科研修医が「へスパンダー®を使いますか」とたずねてきた。麻酔科医は答えた「いや,血清イオン化カルシウムに結合することで免疫グロブリンを減少させる。30mg/kgを超えると凝固障害が起こるから,使わない」 外科医は肝臓を押さえる手を動かさない。助手が吸引する出血量の勢いは弱まってきた。「catch-upできました。しかし加温の努力をしていますが,体温が低下してきています」「中枢温はどこでみているの」「膀胱温です」「出血性ショック時の中枢温測定に膀胱ではだめだ,食道か鼓膜にしてください」「鼓膜温は下がっています。手術を簡略化してください」「OK,死の三徴がでてしまったのでdamage control surgeryにして15分で閉創する」「こちらはdamage control hemostatic resuscitationとしてFFP(新鮮凍結血漿)をすでに始めています」
患者はopen abdomen management(開腹管理)で閉創された。閉創後も腹部コンパートメント症候群を思わせる気道内圧の上昇はなかった。集中治療室(ICU)に入室し,蘇生を継続した。患者は48時間後にplanned reoperationとして手術室に戻ってきた……。
これはほんの一例である。
本書は国内初の外傷麻酔の専門書であり,入門書になるはずだ。外傷麻酔について独学で切り抜けてきたがもっと専門性を高めたいベテラン医師,または外傷に苦手意識をもっている若手医師もいることだろう。ここであげたような症例に遭遇したときに,本書はきっと,そんな彼らの背中を優しく押してくれる。

2019 年4 月
八戸市立市民病院 院長
今 明秀

重症外傷の懸命な手術にもかかわらず,その患者の命を失うことがある。外傷に携わる医療従事者なら,1 度は経験があることであろう。なぜ救命できなかったのか。あまりに重症すぎたのかもしれない。でも,もっと早く病院に到着していれば。もっと早く手術できれば。その思いが,消えることはない。
外傷はsurgical diseaseである。救急医,麻酔科医をはじめとする「非外科系」医師は,外傷の根本的治療である手術をみずから行うことはない。今日の日本の外傷治療の現場において,ある意味,脇役的な存在かもしれない。しかし,ベッドに横たわる瀕死の重症外傷患者の頭側に立ち,いつも考える。どうすれば救命できるのか。なぜなら,外傷には手術だけでなく,蘇生が必要であることを知っているから。JATECTM だけでは重症外傷患者を救命することができないことを知っているから。外傷患者の救命に日夜,挑戦を続ける救急医,麻酔科医,集中治療医。メスを持たない外傷医たちに,この本を届けたい。
近年の外傷治療の進歩の中核にあるのは,「外科的な」手術手技や器械ではない。damage contorl surgery は30 年も前に発明されたものである。いま外傷治療を新たな次元へと進化させるのは,「非外科的な」治療の革新である。つまり,ドクターヘリやドクターカーを含む病院前外傷システム,JPTECTM やJATECTM などの治療の標準化,外傷性凝固障害の認知と治療,輸液や輸血戦略をはじめとする多くの 新たな「非外科的な」治療がこの十数年で進化を遂げている。そして,いま求められているのは,多くの専門医や多職種の連携による専門性の高い外傷チーム医療である。日本でも各領域で外傷治療の専門性とその教育の必要性が議論されてきた。しかし,外傷麻酔の専門性はまだ議論されていない。いま世界では,外傷治療における麻酔科医の役割と専門性が注目されている。
本書のなかで米国の外傷麻酔のエキスパートたちによって論じられているのは,「外傷患者の手術のための麻酔」ではない。外傷患者の治療に必要な手術のために,ただ麻酔をするだけならば,麻酔の基本的な手技と知識で十分であり,それほど難しいことではない。本書が伝える外傷麻酔とは,「外傷患者を治療する麻酔」である。それは,一般的な予定手術や他の内因性疾患の臨時手術の麻酔とは異なる。
外傷麻酔には,外傷患者に特有の病態生理の理解が重要である。そして,外傷初期診療の概念,損傷の診断と治療の基本,治療の優先順位の判断,外傷手術の適応と術式,多発傷手術戦略を理解することが必要である。そのうえで麻酔科医の専門性である気道,呼吸,循環をはじめとする全身管理や麻酔の高度な技術と知識を,いかにして外傷患者の蘇生,緊急手術,周術期管理に応用するかを本書では論じている。さらに,これまで語られることの少なかった外傷治療のテクニックとピットフォールが紹介されている。救急医も外傷外科医もこれは知らないかもしれない。外傷手術の裏で蘇生と麻酔を担い,重傷外傷,多発外傷のダイナミックで複雑な病態を掌握することのできる外傷麻酔医だからこそ知っている技がある。
本書の表紙の写真は,原著の編者の1 人であるDr. Varonが自身のiPhoneで撮影したものだという。米国のRyder Trauma Centerの屋上ヘリポートにヘリコプターで搬入された重症外傷患者を外科医と麻酔科医が迎える場面である。これは,外傷麻酔医の早期参入を象徴する写真である。外傷治療には,麻酔と蘇生が必要である。それは,手術室の中に限られたことではない。外傷麻酔を担うのは麻酔科医だけではなく,救急医や集中治療医が麻酔医として外傷治療にかかわることもあるだろう。本書では,外傷麻酔を担う麻酔科医,麻酔医,メスを持たない外傷医たちを外傷麻酔医と称した。もし外傷麻酔医が蘇生の早期から積極的に外傷チームに参入し,病院前,救急室から手術室へ,そして集中治療室(ICU)へと蘇生をシームレスにつなげることができれば,外傷チーム医療をさらに高い次元へと確実にレベルアップさせることができる。外傷チームには外傷麻酔医にしかできない仕事がある。
外傷患者にとって最高の蘇生,麻酔とは何か。本書は入門書である。ここで語り尽くせない外傷麻酔のエッセンスは,必ず外傷治療の現場にある。外傷麻酔とは,チーム医療である。外傷麻酔医は手術室からでて,外科医と,そして外傷チームと一体になることが求められる。コミュニケーションとチームワークが,これからの外傷麻酔を進化させていくはずである。
最後に,本書の翻訳に協力してくれた日本全国の救急医,外科医,麻酔科医の先生方に感謝する。私に医師としての基礎と,外傷治療,外傷麻酔を教えてくれたのは,いつも一緒に外傷手術をともにした外傷外科医の今明秀先生,野田頭達也先生であった。たくさんの外傷患者との出会いと,2 人の師匠に深く感謝したい。本書は国内初の外傷麻酔の専門書である。日本の救急医,麻酔科医,集中治療医,そして外科医にとって,本書が明日の外傷麻酔の羅針盤となることを願う。

2019 年4 月
防衛医科大学校病院 救急部
吉村 有矢

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